現役最長老の木崎さん。

市野川豊昭私が指導を受けている人に、70歳を過ぎた方がいます。木崎さんです。

私の仕事始めの日からお世話になりました。

その日は、あるマンションの庭木の剪定でした。

「切った枝をどんどんトラックに積んでください」という木崎さんの指示に従って、せっせと積みました。それでも、切った枝は庭に積みあがり、剪定のスピードに追いつかないのです。運びきれなかった枝を、木崎さんは手際よく積み込んでくれました。積み込み方にもコツがあって、なるほどとうなってしまいました。

初めての日というのは、なにごとも衝撃的であるでしょうが、この仕事はなまはんかでは行かないなと感じました。木崎さんは、その日一日、どういう段取りで、午前午後どのくらいの時間配分で作業すればいいか、お分かりです。そして、初めての私がどれほど仕事をこなせるかということも、多分予測がついているのです。

次にお話するのも、あるマンションでの仕事のことです。

このマンションは「自然との共存」という設計コンセプトのもとに30年ほど前にでき、当時注目されたモデルケースの集合住宅です。低層で入り組んだつくりの建物が不規則に並び、その中心ともいえる中庭に里山風の空間を持ち、さまざまな樹木が植えられています。樹木の間をせせらぎ(循環式)が流れ、木漏れ日がやさしく注ぐといった、とても贅沢な空間を持っているのです。

木崎さんから私が命ぜられた仕事は、道路の角にあるケヤキの大樹が弱っているので、変色している皮を剥ぐようにということでした。

ケヤキの皮むき

そのケヤキは、根本から上に3~4m位のところまで確かに変色し、ひび割れていました。さっそく私は、脚立を立てて皮を剥ぎ、さらに太い枝にまたがって上の方を剥いでいきました。下からは通行人が、見上げながら通り過ぎていきます。やがて、剥ぎ終わると、これだけの作業なのに何やら達成感が湧いてくるのを覚えています。

そのうちに、木崎さんはにっこり笑顔を見せながらやってきて、木肌を確かめ、消毒液を噴霧しました。

丁寧に、そしてやさしく。

我が子をいつくしむ父親のようにさえ、私の目には映りました。

木崎さん

藤沢市の造園 蛭田造園

PAGE TOP